おじさんの本棚から取り上げる16冊目の本は、
知念実希人 『祈りのカルテ』です。
知念実希人さんというと「天久鷹央シリーズ」にハマって読み続けてる作家さんです。
今回はシリーズとは別の作品ですが、同様に医療現場が舞台になっています。
いやー、知念さん外さないですね。今回も安定の感動ものでした。
そして、いよいよテレビドラマ化されますね。
ドラマの公式サイトは、こちら🔽をご覧ください。
新米医師の諏訪野良太は、初期臨床研修で様々な科を回っている。
知念実希人 『祈りのカルテ』 角川文庫裏表紙のあらすじより
ある夜、睡眠薬を多量服薬した女性が救急搬送されてきた。
離婚後、入退院を繰り返す彼女の行動に、良太は違和感を覚える。彼女はなぜか毎月5日に退院していたのだ。胃癌の内視鏡手術を拒絶する老人、心臓移植を待つ女優など、個性的な5人の患者の謎を、良太は懸命に解きほぐしてゆく。若き医師の成長と、患者たちが胸に秘めた真実が心を震わす連作医療ミステリ!
上の文庫本のあらすじにあるように、この物語は、一人の研修医が「初期臨床研修」で担当する5人の患者が秘めた謎を、一人一人の事情に寄り添いながら解き明かしていく過程をオムニバス形式でまとめた作品です。
5人の患者のそれぞれが抱えた、医者にも告げたくない真実。
それは、良太が懸命に患者に向き合ったからこそ明らかになったものですが、その真実が明らかになったことで正しい「治療」ができたのかもしれません。
あらすじ
彼女が瞳を閉じる理由
研修医1年目の諏訪野良太は、初期臨床研修として精神科で研修をしていた。
良太の母校である純正医大の研修では、どの科で研修していても週一回程度、救急部での当直が義務付けられていた。
良太が救急部で当直に当たっていたある日、救急要請が入り運ばれてきた患者のことを指導医は、
「救急患者じゃねえよ。『救急車で搬送されてくる患者』っていうだけだ」という。
そして周りの看護師たちに向かって、
「二十六歳、女性、多量服薬。意識混濁、バイタルは正常。あと五分ほどで到着予定。
いつものお客さん。瑠香ちゃんだよ」看護師たちの間に張り詰めていた空気が一気に弛緩した。
「ああ、瑠香ちゃんね……」看護師の一人が鼻を鳴らした。
その「救急車で運ばれてくる女性(山野瑠香)」は、定期的に睡眠薬の多量服薬したあと、自分で救急要請して運ばれてくることを何度も繰り返しているらしい。
元々、精神科にかかっていた患者とのことで、精神的に不安定になると死ぬ気もないのに多量服薬を繰り返すらしいというのが病院スタッフの考えだった。
精神状態の不安定さを表すように、彼女の手首には何回ものリストカットのあとが残っていて、左の二の腕には男性の名前がタバコの火傷で刻まれていた。
彼女を指導医と一緒に担当することになった諏訪野は、なぜ彼女がそのような行為を繰り返すのか気になってきた。
過去のカルテを見返す内に、諏訪野は、山野瑠香の入院に一定の周期があることに気づく。
彼女が「搬送されてくるのは決まって月末か、月初め」、そして退院日は決まって毎月五日だった。
諏訪野は彼女には、その間入院していたい理由があるのではないかと考えた。
患者である彼女の事情に想いを向けた、諏訪野が見つけたその理由とは…。
悪性の境界線
諏訪野は次に外科で研修を行っていた。
指導医の冴木真也は、病状説明室で老齢の男性「近藤玄三」と家族に手術の説明をしていた。
近藤は、初期の胃癌が見つかり、内視鏡で病変部の粘膜を切除する手術を受けることになったためその内容の説明だった。
冴木は病状を心配する本人と家族に、「初期段階で発見できたため癌細胞が粘膜内にとどまっている可能性が高く、その後開腹手術の心配はほとんどない」だろうと説明した。
その説明に納得した近藤は、医師を全面的に信頼して全て任せると言っていた。
その後諏訪野は、玄三の病室で、スーツ姿の男と玄三が何か話しているところに出くわす。
その男はすぐに帰っていったが、その後玄三は態度を急変させ内視鏡手術は拒否すると言い出した。
内視鏡手術の代わりに、開腹手術で80歳の誕生日前に癌を切除して欲しいと言うが、その理由については一切語ろうとしなかった。
一度は快諾した内視鏡手術を拒否してまで、むしろリスクの高い開腹手術を切望する理由とは…。
諏訪野はあの「スーツ姿の男」が何か関係しているかもしれないと考えた。
諏訪野がたどり着いた「玄三が開腹手術にこだわる理由」には、家族への想いが隠されていた。
冷めない傷痕
次の研修先で皮膚科に回った諏訪野は、暇な時間を持て余し気味になっていた。
ちょうどその暇な時間を破るように、主治医の桃井がいう皮膚科にとっての「とある患者」である「熱傷の患者」が緊急搬送されてくることになった。
桃井が「とある患者」と言ったのは、「熱傷患者」が緊急搬送されてくると、皮膚科でも外科並に忙しくなるからだった。
初めて熱傷患者のケアにあたった諏訪野はその大変さを思い知ることになる。
これ……、マジで大変だ……。
翌日の昼間、抗生物質入りの軟膏と火傷からの滲出液で汚れた包帯を慎重に外しながら、諏訪野は桃井に言われたことを思い出していた。(中略)
守屋春香という名のその女性の治療を、桃井とともに担当することになったのだが、それは想像よりも遥かに重労働だった
知念実希人 『祈りのカルテ』
包帯交換をする際に、諏訪野は火傷が広がっていることに気づく。
「受傷後一日以上経って、火傷が広がることなんてあり得ない」
諏訪野と桃井は、入院中に誰かに危害を加えられた可能性も考え始めた。
過去のカルテを見直す諏訪野が見つけた、春香が火傷を負わなければならなかった事情とは…。
シングルマザーの春香が秘めた切ない事情が解き明かされる。
シンデレラの吐息
小児科の研修についた諏訪野は、その当直のハードさに圧倒されていた。
そんな中、喘息発作の少女が緊急搬送されてきた。
少女の名前は「姫井姫子」八歳。
母親の姫井裕子が言うには、
三歳ぐらいのときから喘息になって、何回か入院したことがありました。ただ、小学校に入ってからはあまり発作を起こさなくなっていたんです。けど、一年ぐらい前からまた……。この一年で三回も入院しているんです。
知念実希人 『祈りのカルテ』
とのことだった。
姫子の血液検査の結果を確認していた諏訪野は、処方されていた薬の成分が検出されなかったことに気づいた。
それは、喘息を抑えるために処方された薬を、姫子がなんらかの理由で服用していなかったことを意味する。
両親のどちらかが医療ネグレクトで、薬を与えていなかったのか?
諏訪野と指導医で主治医の志村とで、考えられる原因を推測するのだが……。
姫子は入院中に、またも発作を起こしてしまう。
そしてベッドサイドのゴミ箱から、服用されずに捨てられた薬が見つかった。
薬を服用しなければ発作が起きることは分かっているのに、一体誰が薬を捨てたのか?
諏訪野はあることをきっかけに、繰り返される喘息発作の真相に気づいた。
そこにもまた、切ない動機が隠されていた。
胸に嘘を秘めて
初期臨床研修期間も終わりに近づいた頃、諏訪野は循環器内科で研修をすることになった。
この時期になっても諏訪野は来年からの専攻科を決められずにいた。
そんな中、循環器内科ではあるVIPを指導医の上林と一緒に担当することになる。
そのVIPの患者は、特発性の拡張型心筋症だった。
特発性拡張型心筋症、心臓の筋肉細胞が変性して薄く伸び、心臓が巨大に拡張してしまう原因不明の疾患。拡張した心臓は収縮能力が弱くなっていき、全身へ血液を送るポンプとしての機能を失っていく。
知念実希人 『祈りのカルテ』
軽症のうちは投薬により心臓の負担をとる治療を行うが、重症になると心不全を起こし、根本的な治療法は心臓移植しかない。
そのVIP患者は、芸名「愛原絵理」。
数年前にアイドルから転身してブレイクした女優だった。
そして、彼女は心臓移植が必要な重症患者で、渡米して心臓移植を受けるための待機期間で入院しているのだった。
絵理が難病で入院していることは世間には秘密にされていたのだが、何故かマスコミに漏れてしまう。
初めは諏訪野たち病院スタッフの情報漏洩が疑われたが、絵理の所属事務所が意図的にリークしたものだとわかる。
絵理の入院の事実が世間に知られたことに対応するため、記者会見が開かれた。
その席で、事務所社長は絵理が心臓移植のために渡米する予定であることを発表する。
渡米して移植を受ける予定の病院は、絵理の事務所が既に手配しているともいう。
そして、その渡米と移植にかかる費用を募金で集めたいと発表した。
それこそが、入院の情報をリークした目的だったのだ。
一方、絵理は諏訪野や病院スタッフには非協力的な態度に終始し、実の母親や、腎臓病で苦しむ妹にも冷たく接していた。
記者会見の翌週、今度は事務社長の脱税と綱領のスキャンダルがマスコミに報道された。
それがきっかけで、渡米して移植手術を受けるはずの病院が決まっていることも嘘だったことがわかる。
それでは、募金で渡米費用を集めた理由はなんだったのか。
絵理が諏訪野に託した願いとは…。
読後感
この作品は、研修医の諏訪野良太が「初期臨床研修」で担当した5人の患者を取り巻く物語です。
エピローグで諏訪野は振り返ります。
天井を仰ぐと、二年間の研修生活の記憶が鮮明に蘇る。様々な医師や患者と出会い、そして様々な経験をした。
楽しい記憶、辛い記憶、その全てが輝き自らの血肉となっている。
知念実希人 『祈りのカルテ』
出会った患者たちは、それぞれに様々な事情を抱えていました。
病気の治療にあたりながらも、患者たちが内に秘めた事情を読み解こうと患者に寄り添ってきた諏訪野。
担当患者の過去のカルテから感じた違和感から、患者の内面に隠された真実に気づくことができたのは、患者を救いたいと思う諏訪野の気持ちが強かったからだと思います。
そして、なぜ患者はそんな行動をとることになったのか、その裏の事情を知ることで諏訪野は患者に救いを与えていたのだと思います。
その中でも諏訪野が研修後の専攻科を決めるきっかけになったのは、多くの人の救いを求める患者の願いでした。
物語の性質上、私が感動した核心部分を語ることができませんが、
まだ読まれていない方には、ぜひ手に取っていただきたい作品です。
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