おじさんの本棚 第17回 『そして、バトンは渡された』瀬尾まいこ

読書

おじさんの本棚から取り上げる、17冊目の本は、

瀬尾まいこさんの『そして、バトンは渡された』です。

おじさんの本棚で、同じ作家さんの作品を再度取り上げるのは初めてですね。
今回の作品は、2019年の本屋大賞受賞作です。

手持ちの文庫本には、「本屋大賞受賞作」という上白石萌音さんの写真入り帯が巻かれています。
巻末の解説も上白石萌音さんが書いてるんですよ。

本編の作品はもちろん素晴らしいから、おじさんの本棚から取り上げたのですが、
この萌音さんの解説もまた、彼女らしくていいんです

おじさんは不覚にも、この解説で再度感涙を流してしまいました。

幼い頃に母親を亡くし、父とも海外赴任を機に別れ、継母を選んだ優子。その後も大人の都合に振り回され、高校生の今は二十歳しか離れていない”父”と暮らす。血の繋がらない親の間をリレーされながらも出会う家族皆に愛情をいっぱい注がれてきた彼女自身が伴侶を持つときー。大絶賛の本屋大賞受賞作

瀬尾まいこ『そして、バトンは渡された』 文春文庫 裏表紙のあらすじより

この文庫本のあらすじをざっと見ると、大人の都合で家族を転々と移らされて可哀想な少女だと一瞬思うかもしれません。

でもこの物語を読み始めてすぐに、それは世間の常識に囚われた自分の偏見からくるものだと気付かされることになります。

あらすじ 第1章

向井先生との面談

第1章の始まりは「優子」の担任の「向井先生」との面談シーンから始まる。

優子の家庭環境を気遣う向井先生との面談で優子は、

困った。全然不幸ではないのだ。少しでも厄介なことや困難を抱えていればいいのだけど、適当なものは見当たらない。いつものことながら、この状況に申し訳なくなってしまう。

と考えている。

実の母親を亡くし海外赴任にでた父親とも離れ離れ

大人の事情で、血の繋がらない「家族」の元を転々とさせられた優子が辛い思いをしているのではないかと向井先生は気遣ってくれていた。

17歳の優子には、「父親が三人、母親が二人いる」し「家族の形態は、一七年間で七回も変わった」。

しかし、優子はそれを「全然不幸ではない」と感じていて、それが何か大人の期待を裏切るようで申し訳なく思ってしまう。

森宮さん

17歳の優子の苗字は「森宮」。3人目の父親の姓を名乗っている。

森宮さんが優子の父親になったのは、優子の二人目の母親「梨花さん」と結婚したからだ。

森宮さんは、その時35歳で梨花さんとは中学の同級生。優子とは20歳しか離れていない。

たまたま同窓会で再会して、梨花さんと結婚し、優子の父親になることを選択した。

その後、自由奔放な梨花さんは、家を出て森宮さんと離婚してしまう。
(実はそこには、梨花さんの隠された想いがあったのだが…。)

それでも、森宮さんは「優子の父親」であることはやめなかった。

そして森宮さんと優子の、絶妙なバランスの親娘二人暮らしが始まった。

森宮さんは初婚だったので、それまで子供を持ったことはない。

それでも彼なりに父親らしいことをしようと、日々懸命に向き合っていく。

森宮さんの作る料理は、ちょっと場違いだったりするが愛情を込めて丁寧に作られていた。

日々食卓にのぼる、料理やスイーツ。

その美味しそうな香りが物語全体に漂っている。

梨花さん

梨花さんは、優子の実のお父さん「水戸さん」の再婚相手だ。

優子の母親は、優子が3歳になる前に事故で亡くなっていた。

優子が小学校2年の夏休みに、お父さんが梨花さんを初めて連れてきた。

そして、3年生が始まると同時に梨花さんはお母さんになった。

初めて会った時から、綺麗で優しい梨花さんのことが大好きだったので、
優子にとってそれはむしろ嬉しいことだった。

しばらくは楽しい日々が続いたが、お父さんがブラジルに赴任することになる。

梨花さんは、知らない外国での暮らしは嫌だからついて行けないと言う。

お父さんについて行くかどうかの選択を任された優子は、梨花さんと日本に残ることを選んだ

泉ヶ原さん

お父さんのブラジル赴任についていかなかった梨花さんは、離婚を選択した。

しばらくは、優子と梨花さんの二人暮らしの日々を過ごしたが、
ある日、梨花さんは突然「泉ヶ原さん」という年配のお金持ちと結婚すると言いだした。

それは、優子がふと漏らした「ピアノが弾きたい」という想いを叶えるためだった。

そうして、泉ヶ原さん優子の2人目の「父親」になった

泉ヶ原さんの家での暮らしは何の不自由もないものだった。

家事全般は、使用人の「吉見さん」という女性が全て切り盛りしていて、梨花さんと優子は何もする必要がない。

しかし、その何不自由の無い生活は、奔放な梨花さんには次第に耐え難いものになっていく。

しばらくして、梨花さんは泉ヶ原さんの家を出ていってしまう

優子は、一人泉ヶ原さんの家に残ることになった。

梨花さんは、家を出ていった後も度々優香に会いに訪れていた。

ある日、いつものように現れた梨花さんは、中学の時の同級生と結婚することにしたと告げる。

それが「森宮さん」だった。

森宮さんと結婚した梨花さんは、優子を引き取りたいと泉ヶ原さんに申し出た。

泉ヶ原さんは、全く動じることなく「わかった」と同意する。

こうして、優子は、「森宮優子」になり、森宮さんが3人目の父親になった。

そして、梨花さんと森宮さん、優子の3人の生活が始まったわけだが、
しばらくすると梨花さんはまたも家を出ていってしまった

このような経緯で「優子の父親」としての「森宮さん」優子との二人の生活が始まった

あらすじ 第2章

第2章は、優子が22歳になって結婚を控えているところから始まる。

早瀬くん

早瀬くんは、優子の高校の同窓生。

高校最後の合唱コンクールで、優子は伴奏のピアノを担当した。

同じく他のクラスのピアノを担当したのが、早瀬くんだった。

幼い頃からピアノのレッスンを受けてきた早瀬くんが奏でる音に、優子は魅了されてしまう。

高校時代は、早瀬くんのピアノの旋律への憧れの気持ちから先に進むことはなかった。

優子は、短大を卒業して小さな食堂に就職したのだが、ある日そこに早瀬くんが現れる。
そして二人は付き合うことになった。

ここから先は、今まで「バトンが渡されてきた」意味が解き明かされていく内容なので、
未読の方のためにもこれ以上触れるのは控えます。

読後感

この物語には、美味しい料理の香りと、ピアノの旋律が常に背景に溶け込んでいる感じがしました。

森宮さんが優子のために作る、ちょっと変わっているけど優しい気持ちが込められた料理。

丁寧に作られた料理からは、子供を思いやる親の優しさが感じられる香りが漂ってきます。

早瀬くんが奏でる、聴く人たちを一瞬でその世界に引き込むようなピアノの音色。
その旋律は、時にダイナミックに、時には優しく慈愛に満ちた音色を奏でます。

それらを背景としながら、3人の父親2人目の母親優子に注ぐ愛情が胸に沁みてきます。

親たちの表現は一人一人違うけれど、根底に共通してあるのは「優子を想う気持ち」です。

それぞれとてもいい人だけど、とりわけ最後の父親になった森宮さんは素敵です。

初婚で女子高校生を初めての子供として迎えた森宮さんは、親としてのあるべき行動を追求し続けます。

それがちょっとズレているところも、いかにも森宮さんらしくて微笑ましいです。

2人目の母親の梨花さんは、一見軽率で行動が先走る人のように思えます。

けれど本当は、優子が一番幸せになれるように、彼女なりの選択をしていたのです。

そんな梨花さんの言葉を、森宮さんは優子に教えてくれました。

梨花が言ってた。優子ちゃんの母親になってから明日が二つになったって

(中略)

「そう。自分の明日と、自分よりたくさんの可能性と未来を含んだ明日が、やってくるんだって。親になるって、未来が二倍以上になることだよって。……」

(中略)

「いや。梨花の言うとおりだった。優子ちゃんと暮らし始めて、明日はちゃんと二つになったよ。自分のと、自分よりずっと大事な明日が、毎日やってくる。すごいよな」

瀬尾まいこ『そして、バトンは渡された』 文春文庫 より

梨花さんの言葉を噛みしめるように語る森宮さんの気持ちに触れて、子供を思う気持ちに「実の子供を持ったことがない」なんて関係ないんだと思いました。

家族」って、ありがたいものだと思います。

とても暖かい気持ちになれる作品です。秋の読書にいかがでしょうか。

この記事の冒頭でも紹介しましたが、上白石萌音さんの解説も是非読んでもらいたいです。

よかったら、一度手に取ってみてください。

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