おじさんの本棚から紹介する25冊目の本は、
凪良ゆうさんの『滅びの前のシャングリラ』です。
前回24冊目に紹介した『流浪の月』に続いての凪良さんの作品です。
すっかり凪良さんのファンになってしまったようです。
「明日死ねたら楽なのにとずっと夢見ていた。
なのに最期の最期になって、もう少し生きてみてもよかったと思っている」
一ヶ月後、小惑星が地球に衝突する。滅亡を前に荒廃していく世界の中で「人生をうまく生きられなかった」四人が、最期の時までをどう過ごすのか――。
Amazon紹介文より
一ヶ月後、小惑星が地球に衝突する。
それは、突然政府から通達されました。
それまで各国が秘密裏に対策を検討してきたが、もう逃れようがないことがわかり一般国民に情報開示されたのです。
逃げ場所はどこにもありません。
かの映画のように、命懸けで地球を救うヒーローも現れません。
人類滅亡のカウントダウンの中で、人はどうなっていくのか?
あらすじ
シャングリラ
物語は、平凡だけれどもうまくいかない毎日にうんざりしている少年の日常から始まります。
主人公の「ぼく= 江那友樹(17歳)」は、スクールカーストの底辺で、パシリに使われ、「からかい」という名のいじめにあっています。
クラスメイトから受ける屈辱に耐えるため、「ぼく」は妄想の世界に逃げ込みます。
まず、こいつら全員に呪いをかける。飲食店に入ったら必ず注文を忘れられる呪い、結婚式の日にものもらいができる呪い。カレーの日に炊飯器のスイッチを押し忘れる呪い。
これらの呪いには、「ぼく」なりのコツがあり、「どこかに一抹のユーモアを残さなければならない」というルールを決めていました。
「本気の呪いは我に返ったときつらい」ということをぼくは経験的に学んできたからです。
ぼくはかつて小学生の頃、好きな女の子「藤森さん」に冷たくあしらわれて心の中で思いました。
ーSOS地球、SOS地球。こちらぼく。緊急事態発生。
ー今すぐ爆発して、人類を滅亡させてください。
好きな女の子に無視された。小学生男子が地球爆破を願うには充分な理由だろう。
それでもぼくは、高校生になっても、「藤森雪絵さん」にひそかに片思いしていました。
そして、「彼女の願い」を叶えさせるために立ち上がります。
そんな「ぼく」を送り出す母親(江那静香 四十歳)は、すごく「男前」で素敵な人です。
「お母さん」は言います。
でも、おまえが決めたんだからしかたない。惚れた女は命がけで守れ。そんで絶対にあたしんとこに戻ってこい。十七年も育ててきたんだから、それくらいの親孝行はしてもいいだろう
こうしてぼくは、残された日々を精一杯生きるために一歩踏み出したのです。
パーフェクトワールド
もう一人の主人公は、「目力信士(めじからしんじ)」四十歳、もとはヤクザに成りそこねたチンピラでした。
昔の兄貴分の頼みで、大物ヤクザを殺しました。
もうすぐ人類が滅亡するかもしれないことなど、知る前でした。
逮捕されるまでの束の間に、娑婆の贅沢を味わっておこうとしますが、楽しむことはできません。
人類に残された時間が少ないことを知ると、昔別れた女に会いに行こうと考えました。
今までの「ロクでもない人生」を精算しようとする中で、彼もまた大切なものに気づいていくのです。
いまわのきわ
最後に登場する主人公は、「山田路子 」二十九歳。
「大阪のあまりガラのよろしくない地区」に生まれて、アマチュアバンドからアイドル入り。
その後、敏腕プロデューサーに拾われて、「Loco」という名の伝説の歌姫になっていきます。
そんな「Loco」にも世代交代の時期がおとづれ、またしても「路子」は途方にくれていました。
そんなときに流れてきた、小惑星衝突のニュース。
残りの時間を「Loco = 路子」として、ツアーファイナルのステージにかけることにしたのです。
ツアーファイナル
Locoのファンの藤森さんと一緒に、主人公たちは最後のステージを迎えます。
読後感
一ヶ月後に迫った小惑星衝突。
人類滅亡はほぼ避けられないという状況で、人はどうなっていくのか?
多くの人々が自暴自棄になっていく中で、最後まで精一杯生きようとする人たちの生き様を見ました。
それぞれが訳ありの日常に閉塞感を感じていて、「こんな世界なんて終わってしまえばいいのに」と思いながらも日々を暮らしていた人たち。
皮肉なことに、人類滅亡のカウントダウンの中で大切なものに気づいていきます。
ラストステージに立った「Loco = 路子」が、心の中でつぶやくこと。
それに気づかせてくれる物語だと思います。
今この世界情勢の中、この本に出会えたこともまた、私にとって大切な日常なのです。
タイトルに使われた「シャングリラ」とは理想郷のことだそうです。
人類の滅びを目前にして、主人公たちはそこに「理想郷」を見たのでしょうか?
人類滅亡前というテーマなのに、なぜか清々しい読後感が残った作品でした。
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