おじさんの本棚から取り上げる10冊目の本は、
ロバート・A・ハインライン 『夏への扉』です。
松田聖子の曲に「夏の扉」というのがありましたが、そっちではなくて『夏への扉』です。
今回はSF長編の傑作ですが、なんでも最近邦画で映画化されたらしいですね。
本屋さんに映画宣伝用の特別カバーがかかった文庫が並んでいました。
その光景を見て、「『夏への扉』かぁ、懐かしいなぁ」と思ったので、今回取り上げることにしました。
映画化で初めて知って、気になっている方もあるかなと思いますので極力ネタバレ回避でいきたいと思います。
あらすじ
夏への扉
主人公の「ぼく」が飼っている牡猫の「ピート」は冬が嫌いだった。
ピートは冬が来ると、ぼくの家にある11箇所の人間用の扉を一つ一つをぼくに開けさせるのだが、それはピートがそのどれか一つに向こうに夏が広がる「夏への扉」があるはずだと信念を持っていたからだ。
それは、ピートが冬の世界から夏に行きたいという欲求が起きるたびに繰り返され、何度ダメでも決して諦めることは無かった。
そして、ぼくも「夏への扉」を探していた。
一九七〇年一二月の三日、かくいうぼくも夏への扉を探していた。(中略)
この地球上には、ぼくよりも不遇な人間は二十億人はいたはずだ。にもかかわらず、ぼくはひたすら夏への扉を探していたのである。
ロバート・A・ハインライン 『夏への扉』 福島正実訳
この時ぼくの探していた「夏への扉」は、辛い現実から逃避できる方法だった。
その現実逃避の一つとして、酒の酔いで一時現実を忘れるために入ったバアの窓越しに「冷凍睡眠(コールドスリープ)保険」の広告サインを目にした。
冷凍睡眠(コールドスリープ)
「冷凍睡眠」とは、冷凍状態で眠りにつき、現在の肉体年齢の状態で数十年先の未来に目覚めるというもの。
それを保険会社と契約して、睡眠状態の間に資産運用がされ、医学も科学も進歩した未来で再出発することができるようにする。
ぼくは、この冷凍睡眠を「夏への扉」にしようと思いついた。そしてそのことで自分を現在の境遇に陥れた裏切り者に一泡くわせることも可能なのではないかと考えた。
友人と婚約者の裏切り
ぼくは、元々技術者で、家庭内の女性を家事労働から解放すべく自動掃除機「文化女中器(ハイヤードガール)」を発明し、その進化型の「家事代行ロボット」で会社を起こしていた。
その共同経営者が友人の「マイルズ」で、二人で会社を運営していたが、事業化が進む中で「秘書兼オフィースマネジャー」として「ベル・ダーキン」という女性が加わった。
ぼくは、根っからの技術者で、常に製品開発のことを考えていたが、マイルズは専ら会社の経営に重きを置いていた。
良い製品を世に出すよりも、早く会社を大きくしたいと考えていたようだ。
一方、ベルの美貌と才能に魅せられたぼくは、彼女に婚約を申し出る。
婚約の申し込みを承諾したベルに、ぼくは持株の一部を婚約の証として贈ることにした。
(そのことで、ベルも議決権を持つ株主になった。)
次第に会社の経営についてぼくと意見が合わなくなってきたマイルズは開発中の新製品を早く売り出したいと考えるが、製品の完成度を高めたいぼくは承知しない。
そこで、マイルズは策を弄して、あろうことかベルと共謀して、ぼくから会社も製品の特許も取り上げてしまった。
親友だと思っていた共同経営者と「元婚約者」のベルの二人から裏切られたぼくは、現在の状況から逃避することと二人への復讐のため「冷凍睡眠」を選んだのだったが・・・。
裏切り者への復讐のために冷凍睡眠を選択することの虚しさに気づいたぼくは、一旦冷凍睡眠を思いとどまり、現在の二人に一矢報いてやろうと思い立つ。
ぼくが思いを遂げようと、マイルズの元へ向うと、彼の家にベルも一緒にいるところに出くわす。
改めて二人が共謀していたことに気づいたぼくは、二人を言葉で追い詰めていく。
しかし、悪女「ベル」の手にかかり、自由を奪われたぼくは、ベルの手によって冷凍睡眠に送られてしまった。
冷凍睡眠からの覚醒 三十年後の世界から逆点へ
冷凍睡眠から目覚めると、世界は大きく変わっていた。
そして眠っている間に運用されているはずの資産は無くなってしまい、ぼくは、ほぼ無一文で30年後の世界で生きることになった。
やがてぼくは勤め先の同僚から、この30年後の世界には、「タイムマシーン」を現実化した研究者がいることを知る。
苦労の末、その研究者に辿り着いたぼくは、タイムマシーンで冷凍睡眠に入る前の世界に戻ることに成功した。
そこから、ぼくは覚醒してから調べてきた情報を駆使して、冷凍睡眠に入る前の「やり直し」を実現していく。
「やり直し」に成功したぼくは、会社と製品を以前よりも良い状態で取り戻すことができた。
そしても何よりも、一番望んだ「幸せ」を手に入れることに成功したのだった。
それは、ピートのように「ドアというドアを試せば、必ずそのひとつは夏に通じるという確信を棄てようとしなかった」からたどり着けた場所だった。
読後感
物語の序盤では、主人公の「ぼく」は何故こんなに荒んでいるんだろうと思いました。
徐々に明らかになる、親友と元婚約者からの裏切りを知ると、主人公はなんてお人好しなんだとジリジリする気持ちと、友人のマイルズと元ぼくの婚約者のベルが極悪人に思えて怒りの感情が芽生えます。
あまりの不快感に、途中で読むのをやめようかとさえ思いました。
騙し打ちにあって、強制的にコールドスリープに送り込まれてしまうわけですが、30年後に覚醒してからが、壮大な逆転劇が展開されます。
過去の情報をなんとか調べ上げていき、それらの情報を下に対策を考えようとしていた時に、タイムマシーンでコールドスリープする前に戻れる可能性を見つけ、その可能性にかけます。
そして、戻った過去で今まで積み上げてきた情報をもとに、次々に手を打っていく様がまさに「胸のすく」スカッとジャパン的な展開でカタルシスを感じます。
今回、あらすじではあえてその「逆転劇」の部分には触れませんでした。
この物語は、この部分の爽快感を味わうことに醍醐味があると私は思うからです。
未読の方は、是非一度読んでみてください。
映画化されたようですが(私は見ていませんけど)、できれば映画を見る前に原作を読まれることをお勧めします。
昔、角川映画のキャッチコピーで「読んでから見るか、見てから読むか」というのがありましたが、私は断然「読んでから見る派」でした。
今でもそう思います。
あなたは、「読んでから見るか、見てから読むか」どちら派ですか?
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