おじさんの本棚 第7回 『美亜へ贈る真珠』梶尾真治

読書

おじさんの本棚から取り上げる7冊目の本は、
梶尾真治 美亜へ贈る真珠(早川書房)です。

この作品は、同名のSF短編集に納められた、タイトル作品です。

32ページほどの小品なのでサクッと読めますが、その中には3世代に渡る時間の流れが描かれています。

あらすじ

航時機計画

「『航時機』が始動してから、そう、一週間も過ぎていたでしょうか。」という書き出しでこの物語は始まる。

この「航時機計画」の雑務と「航時機」の管理を任された「私」の視点で物語は展開される。

では、「航時機」とはどのようなものなのか?

私の説明では、

「『航時機計画』、それは、一口でいえば生きたタイムカプセルでした。」
「ちょうど具体化され始めていた『時間軸圧縮理論』という、時間の流れを八万五千分の一にする理論の実践という大義名分で、『航時機』を使用することになったのです。」

ということらしい。

つまり、航時機の外(通常の世界)での1日は、航時機の中では1秒間に過ぎないということだ。

航時機に乗り込んでいる人間はその新陳代謝も同様な時の流れに支配されるため、老化も同じスピードで進むことになる。

その航時機の中には二十三歳ほどの端正な顔立ちの男性が乗員として「搭乗」している

彼が、未来への使者として長い任務についたのだ。

美亜との出会い

ある日、私は、航時機の見学者の二十歳すぎの女性に何か気になるものを感じた。

閉館間際の見学者が途絶えた中、航時機の中の青年を哀しげに見つめる女性

なぜ彼女がそのような表情で中の青年を見つめているのか、私は気になってしまう。

二度目に彼女を見かけた時、私は思い切って声を掛ける。

彼女と会話してみて、航時機の中の青年が彼女の婚約者だったことがわかった。

彼女の名前は「美亜」、航時機の中の青年は、「アキ」といった。

アキがなぜ婚約者の美亜を置いて、航時機の乗員になったのかは物語の中では触れられない。

だだ、美亜は自分を残していったことで、自分が忘れ去られてしまったのだと思っている。

アキが航時機に乗る前、婚約の証として彼が子供の頃から持っていた一粒の真珠を贈った。

ただ、その真珠には小さな傷があった。

その代わりエンゲージリングには傷のない金のリングのついた真珠の指輪を贈ると、彼は約束したのだった。

それから私と美亜は親しくなり、ほとんど歳をとらないアキの前で思い出話を繰り返す。

歳月は流れ、航時機のことは世間ではほとんど話題に登ることも無くなった。

そんな中でも私は、航時機の「管理人」としての任務を継続していた。

ある日、息子夫婦が孫娘の「美樹」を連れて私の元を訪れる。

私は、孫娘の美樹に美亜の真珠を見せ、「その真珠はあげるからお父さんに金のリングをつけてもらうといい」と真珠をあげることにした。

とても喜んだ美樹は、ふと、航時機の中に浮かんでいる別の「真珠」を見つける。

その美しい「真珠」を見つめる美樹の横顔に、私は「美亜の面影」をみた。

美樹が航時機の中に見つけたのは、アキが美亜に贈る「真珠」なのだった。

ケン青年の読後感

序盤では、物語の展開は淡々と進んでいきます。

航時機とはいったい何なのか?

それに搭乗して未来へ行こうとしている若者はなぜそれを選んだのか?

いくつかの疑問を保留しながら、物語は美亜のアキへの切ない思いの告白を元に進んでいきます。

短編のSF作品では、あえて多くは説明せず、足りない情報を読者の想像で補完させることがよくあるように思います。

この作品でも、私の美亜に対する思いや彼女との関係性については多くは語られません。

しかし、最後の1ページで、それまで淡々と語られてきた物語の全体像が鮮やかに浮かび上がります。

そこには、生涯を通してアキを愛し続けた美亜の想いと、それを承知でそばで支え続けた私の想いがありました。

そのことに気付かされたケン青年は、美亜を支え続けた「私」はどれほど切なかっただろうと思いました。

目の前には、航時機の中でほとんど歳を取らないままのアキがいるのです。

そして、自身は老いていきながらも、そのアキを愛し続ける美亜のことを見続けるのは辛かったのではないかと思います。

そして、美亜から預かっていた婚約の真珠を孫娘の美樹に与えた時、彼女が航時機の中に見つけた「真珠」の意味がわかると、アキもまた美亜のことを愛し続けていたのだと知らされるのです。

孫娘の名前は「美紀」です。その顔には美亜の面影が浮かびます。

アキが航時機から出てくる頃は「美紀」はいくつになっているのでしょう。

この物語の終わりは、未来のもう一つの物語に続いていくようにケン青年は感じたのでした。

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